22XX 清水玲子
10年ぶりぐらいに、心の片隅にひっかかって、気にはなっていた漫画と出会い再読した。最初に読んだ時の衝撃と感動は、今も色あせてはいなかった。少女マンガにしては暗くて重いテーマを、見事に昇華してみせる。たぶん、そのときひっかかった傷は一生涯残り、消えない。それだけの作品だと私は思う。生命は他の生命を食らってしか生きられない。もちろん人も。食べることは、宗教でも重要なテーマである。古来から人は食べることに、無意識の畏れと悲しみを抱きつつ生き延びてきた。神への祈りもそこから始まるんじゃないか。
主人公の男性はロボットで、女性は食人をタブーとしない種族の異星人、文章にするとすごい設定だ。自分が誰かに食べられることによって、食べてくれた生命の中で生きる。誰にも食べてもらえないことが恐怖であり、生命の循環から断ち切られる本当の死を意味する。
人は他の生命から食らわれない特殊な存在である。そこにこそ、人の本当の孤独と悲しみがあるのではないか。人は自ら死を隠し、生命の環から外れてその生涯を閉じる。
つい数十年前までは土葬が行われ、人は土に還ることができた。昔はいろいろな方法で、生命を次につなげようとした。火葬した骨を食べるのも、その名残なのではないか。また鳥葬という、鳥に死骸を食べてもらい、その魂を天に運んでもらうという宗教も存在する。インドでは、普通に生を全うした人は火葬され、遺灰がガンガーに流される。子供や事故等で生を全うできなかった人は、そのままガンガーに流され、魚やたどり着いた岸辺の野良犬によって食らわれる。
飢えることの無くなった日本で、食べるという神聖な行為が死滅していく。
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