忠臣蔵について書かれた小説である。今まで「赤穂浪士」「忠臣蔵」の物語にあまり興味がなかった。真面目に読んだのは今回が初めてである。何故この物語がこれほどの人気があるのかよくわからない。大石内蔵助の魅力とは何か。美しい自己犠牲の精神。侍の道。
しかしこの作者の描く忠臣蔵は、美談では終わらない。ヒトの存在の本質へと向かう。どのように生きるかとは、どのように死ぬか。時代の掟を背負って生きた侍達。死へ向かう、死とは何か、それは侍の道を美しく生きること。
光の当て方でものの見え方は変わる。これは赤穂と米沢の戦い。戦いとは残酷なものだ。それをどう見るかは、人それぞれ。この本では「刺客」であり、言い換えればテロリストである。何か大儀のために、侍の道、神の為、正義の為、戦うという構造は同じではないのか。何かの為にヒトは戦う、戦わされる。
時の権力によって様々に彩られてきたこの物語に、一片の光を当てた小説であるといえよう。幻想は尽きない。
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