これもまた、似つかわしくないと思いつつ、やくざ映画への誘惑を振り切って手に取った。1999年製作、中国の映画である。英語の題名は「The Road Home」。こっちのほうがしっくりくると思った。過去に、この監督の作品を何本か観た記憶はあるのだが、よく憶えていない。だから、そんなに期待をかけていなかった。
だがしかし、やられた。「こんなのありかよ」と思いはしたものの、素晴らしいものは素晴らしい。この作品も静かだ。物語は単純素朴で古めかしく、時代錯誤と拒絶されてもしょうがない、一歩間違えれば陳腐なものに堕す危ういものだ。だが奇跡的に踏みとどまり、この映画を成立させているのは、主演女優チャン・ツィイーの魅力による。その魔力がほとんど総てを占めるといっても過言ではない。その存在が女神であることによって、この作品は成功した。そしてそれを、中国の美しく雄大な自然の背景が際立たせている。もう一つの主役がこの自然なのだ。その、時には水墨画のような、また時には光に満ち溢れた、詩情溢れる美しい映像にも救われている。どこか神話の世界のようでもあり、人の無意識に眠る「自然と人間、或いは神、との関わり」が、人の古くから積み重ねられてきたであろう素朴な生活と信仰の記憶を、懐かしさと共に蘇らせた。それは静謐な感動であった。「世界は単純であるというのもまた真理である」と、つい思わせられる不思議な作品であった。夢想は尽きない。
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