ヴァルター・シュピースの魔術的人生
かなり面白かった。バリ島にこんな異人がいたとは知らなかった。観光地化されたイメージが凄く強くて、いまひとつ興味が向かなかったのだが、この本を読んでぐっと惹きつけられた。インドネシアにはまだ行ったことがないのだが、これで少し接点ができた気がする。南海の楽園。祝祭的空間を感じてみたい。シュピースは魔術師のようだ。音楽、絵画、写真、舞踏、あらゆる芸術を操った男。その人生は波乱に満ち満ちている。この本のラストにシュピースの手紙の引用があり印象に残る。「芸術は祈りのようであらねばならないと思います。何かをほめたたえる歌や生きることの高貴さを賞賛するものでなくてはならない。祈りは何ごとをも描かず、物語らず、ただほとんど魔術的ともいえる力強い方法で包みこまれている聖なるもののエッセンスを結晶化してゆくだけなのです」彼の描いた数百点の絵画もまた、どこか行方知らずだという。夢想は尽きない。
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