もう10年以上も昔の話になる。大塚駅前の路上で一人ギターを弾き浅川マキの曲を歌う男と出会った。確かアルバイトの帰り道、夜12時ぐらいだったと思う。ホームで電車を待っている間、何気なく耳にとびこんでくる音と歌声
が気になり、吸い寄せられるようにもう一度改札を抜け、その歌声がする方向に戻った。そしてその男と意気投合することになる。何が私を引き寄せたのか。その男の歌声か、それとも浅川マキの曲の力だったのか。たぶん両方だろう。その当時私は浅川マキを知らなかった。そして男の歌う浅川マキの世界は独特で、私の魂を捉えふるわせた。その夜男と路上で歌い、新宿で朝まで酒を飲んだ。その後三ヶ月ほど路上で共にブルースを歌い、ある日を境にぷっつりと消えていなくなった。それ以来その男がどうなったか私は知らない。
最近はとんと音楽を聴かなくなってしまったが、たまに浅川マキは聴きたくなるシンガーの一人である。たった一度、池袋文芸座での大晦日ライブを観に行ったことがある。観客はそれぞれバーボンや焼酎のボトルを飲み、べろべろになって帰っていく。そして祭りの後の空しさ、空き瓶と紙屑が風に舞う深夜の池袋の街、かなり異質な新年を迎えたのが記憶に残る。まるで暗闇から現れた魔女のような異質な存在。10年ぶりにアルバム「DARKNESS Ⅳ」が発売されている。たまたまネットで見て気づいた。ぜひ、久しぶりに購入して、ダークな世界に浸りたい。
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