チャべスモデルとは
かなりマニアックな背景を持つモデルだ。フリオ・セサール ・チャべスはメキシコ人で、1980~1990年代にかけて活躍したボクシング界のスーパースターだった人物(世界タイトル3階級制覇と88連勝を記録等)「メキシコの英雄」。とはいっても、日本ではほとんど一般になじみがない名前であろう。よほどのボクシングマニアでなければ、その試合を観たことがないと思う。
なんでこんなダンクが発売されたのか、ちょっと不思議で興味を惹かれた。なんか想像をかきたてられたとでもいおうか。ネット上ではこれが、1996年の世界スーパーライト級タイトルマッチ、王者チャべスvs挑戦者オスカー・デ・ラ・ホーヤとのタイトルマッチを表現していると書かれている。私は残念ながらその試合は観ていないのだが、デ・ラ・ホーヤはチャンピオンを激しい流血に追い込み、4RTKO勝ちを収め、3階級制覇とともにチャべスの時代に幕を下ろした。
一方のデ・ラ・ホーヤはメキシコ系アメリカ人で、世界タイトル6階級を制覇した、こちらもスーパースター。今年の12月6日に引退試合が行われる予定である。アメリカで最も人気があるボクサーの一人だそうだ。
でも実際発売されたモデルを見てみると、左足には「0」と「CHAVEZ」の刺繍が入っているものの、右足には「2」としか入っていない。何故だろう。一部のサイトでは、右足に「DE LA HOYA」の刺繍が入ると書かれていたので不思議に思った。なんかこのモデルを見た瞬間、違和感のようなものを感じたからである。
そして海外サイト上で「DE LA HOYA」と刺繍が入っている写真を発見した。そして、それには数字の刺繍は入っていないようだ。しかも、それは「DUNK HI PREMIUM」の表記ではなく、「DUNK HI SB」となっている。なんと外見はまったく同じで2種類の「ULTIMATE GLORY」が存在するようなのだ。それは何故なのか。
ここからは、たんなる推理でしかない。このモデルのキーワードは、「メキシコ」である。まず、これがメキシコの別注モデルという説がある。わざわざ、デラホーヤが消えてチャべスが残ったのをみても、それは正しいように感じられる。それは、タンに付いた「ULTIMATE GLORY」から推理可能だ。どうやらそれは、メキシコ発信のナイキイベントの名称だと思われる。そこで企画されたスペシャルモデルが、このダンクである。そして、メキシコで発売される(た?)のは、日本で発売されたのと同じ「PREMIUM」の方である。
では、何故2種類のモデルが作られたのかを推理してみる。ナイキ側からみれば、チャべスとデラホーヤの名前が両方入っている方が好ましかったと思われる。そのほうが分かりやすいし、デラホーヤは本家アメリカではビッグネームでもある。それが何らかの理由によって、デラホーヤの名前だけ削除された。それとも、2種類発売する予定だったのか。たんにプロモ用に作られたのか。いまのところ、「SB」(本当にSBなのかも疑問が残る)の方は、サンプルしか確認されていないという。
デラホーヤの文字を削除した理由は、メキシコ側にあるのではないだろうか。(名前の使用をデラホーヤが拒否した、とも考えられるが、サンプルを作っている以上許可は取得していたと想像される)メキシコ人は格闘技に熱狂する国民性を持つといわれる。それはボクシングやルチャ・リブレ(メキシカン・プロレス)の隆盛をみれば窺える。そのなかでも、チャべスは別格「メキシコの英雄」なのだ。そのチャべスを二度までも倒し、事実上引退へと導いた「デラホーヤ」という記号への拒否反応、拒絶だったのではなかろうか。
そのかわり、コンセプトの分かりにくさを解消する為に、最初はなかった(「SB」にはない)「0」「2」という数字の刺繍が採用された。チャべス(左足)が「0」で右足(本来はデラホーヤの刺繍が入る予定だった)が「2」である。これはもう単純にその勝敗、デラホーヤ2戦2勝を表しているような気がする。これは後付であり、苦し紛れにも感じられるが。
デラホーヤは、メキシコ人の血が流れているとはいえ、「アメリカ」を象徴するものとされた。このダンクは、左右の思惑が複雑に戦っている面白いスニカーといえるのではないだろうか。デラホ-ヤは今年で引退し、一方ではチャべスの息子、チャべスJrが快進撃を続けている。そんな背景もあわせると、さらに興味が増してくる。「モノ」とは、そんなヒトの幻想の上に成り立っているとはいえないか。夢想は尽きない。
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