この人の映画を一度、前から観たいと思っていた。この「林海象」という名前から、台湾かどこかの人なのかと想像していたのだが。ほんとうは、第一作目の作品「夢みるように眠りたい」を観たかったのだが、たまたまこちらを手に入れた。これは、1989年製作の第三作目にあたる。ひさしぶりに観たモノクロ映画である。サーカスを舞台にした、ノスタルジックな映像が印象に残る。がしかし、もの足りない。映画として、ひっぱっていく力に欠けているので、どこか退屈さが付きまとうのだ。作品の世界は充分魅力的であるだけに、惜しい出来である。
サーカスと香具師、サーカスは古代エジプト時代から、一方香具師の語源は「古事記」に登場するなどといわれている。両方とも、古くから非日常を演出するシステムの一つである。そしてそこには、その時代における社会システムから弾きだされたさまざまな人々が存在したであろう。そんな、かつていたるところに存在したはずの「場」、縁日・祭礼等の非日常(ハレ)の空間が、風前の灯のように消えてゆく寂しさを思う。サーカスを観に行った記憶などないのに、どこか懐かしいような感じがするのは、とても不思議だ。それは人類の血に刻まれた記憶なのかもしれない。そして、格闘技を観るのが好きなのも、どこか血脈がそこへ繋がっているからであると思う。この映画を観て、はたして時代の変化が「人が生きる」という意味において、「楽しみ」をもたらしてきたのか疑問が残る。「穢れ」のエネルギーは、行き場なく其処此処に吹き溜まってゆく。夢想は尽きない。
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