原題は「THE LAST GOOD KISS」1978年刊。チャンドラーに捧げるオマージュが、題名からも窺える。
クラムリーの評判は目にしていたので、いつか読みたいと思っていた。今回、この作品を読み終わって、期待に違わぬ面白い作家であるなと確認させられた。でも今、ネットで検索していたら、残念ながら、最近亡くなったという記事を読んだ。しかも、彼は物凄い寡作で、その生涯で長編7~8作しか残していない。だからこれから、それらを味わうのが貴重なことであると共に、ひじょうに楽しみでもある。また一人、いい作家に出会えた。
私は極上のハードボイルドに目がない。それは旨い酒に似て、心地よい酔いをもたらしてくれるから。そんな、滅多にない出会いを求めて、本を読み続けているのかもしれない。
さて、この作品であるが、話の筋は別にたいしたことはない。ひたすら酒を飲みまくる登場人物達(ブルドッグもビールを飲む)が、広大なアメリカを車で常に移動している。その過程の場面場面が、すごく印象に残るのだ。それは、人物が単なる操り人形ではなく、ちゃんと生命を吹き込まれているからであろう。読み終わって衝撃が走るという感じではなく、むしろ、酔いがじわじわ染み入ってくるようだ。これほど、琥珀色を意識させる作品も珍しい。これは捨てがたい味わいを持っている。特に酒好きにはお薦めである。夢想は尽きない。
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