1990年製作の映画「櫻の園」を観た。正直いって、あまり好みの映画じゃないかなと思いつつ、原作が吉田秋生の漫画作品である事に興味を魅かれて選んだ。この原作は未読だが、だいぶ以前に読んだ彼女の「BANANA FISH」という作品がとても面白く、強く印象に残っているせいである。そしてこの映画は、いい意味で期待を裏切る、素晴らしいものだった。それは傑作というより、どちらかというと、優れた佳品と呼ぶほうが似合う。これといって、たいした物語の展開もなく、ゆっくり淡々とした時間の流れる映像はとても静かだ。そして、そこに溢れる瑞々しい感性に、ふんわりと包み込まれる感じがする。そいつに、どこか懐かしい記憶が揺さぶられた。確かに ある一時期、「若さとか青春とか夢とか希望とか呼ばれる不安定な何かを抱えている瞬間」を生きていた。それは感性の抗いの、最後の瞬間でもあった。この映画は奇跡的に、そんな瞬間を切り取って、その時間を見事に映像の中に封じ込めた。なにか大仰なメッセージを突き刺すのとは違う、静かに感覚を振動させるものなのではないだろうか。 夢想は尽きない。
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